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映画『風立ちぬ』

 観てから少し時間が経ってしまったが、映画『風立ちぬ』。

 宮崎駿監督引退宣言も受けて、いろいろ話題になったが、私は好かった。
 声高に反戦を唱えてはいないが、だからこそ徐々に時代に飲み込まれていく人たちと、技術者の性(サガ)を考えさせられた。以下、一部に焦点をあてた感想(ネタバレあり)。

 印象に残ったのは、サナトリウム。
 主人公、堀越二郎の恋人 菜穗子は、結核を治したい一心で山の病院にいくが、そこは治療のための病院ではなかった。菜穗子の父親はそれを知っていて、入院を勧めず自宅療養させていたのだろうし、二郎もまたそれを知っているからこそ病院を抜けてきた菜穗子を手許に置いたのだ。
 医学生だから医学を信じたい二郎の妹、加代は、兄に説教するが、彼女もまた兄と菜穗子の気持ちは痛いほどわかる。離れに住まわせる黒川夫妻もわかっていた。

 治らない病気、とわかったときに、人はどう生きるか。周りはどう支援するのか。
 不幸な時代に、重い病気を抱えて生きるとは、どういうことか。

 それから、煙草。
 喫煙シーンが多いとか、結核の妻が寝ている横で煙草を吸うとは、と言った批判があるようだ。日本喫煙学会からもクレームがきたとか。まあ学会としては指摘したいんだろうと思う。その批判を知ってから映画を観たからだろうか、煙草のシーンが気になった。本筋はそこではないのだが。  

 私は煙草を吸わないし、煙草の煙は嫌いだが、喫煙シーンへの批判に違和感を覚える。

 20代の友人と話したときに、煙草に対する認識が違ったことを思い出した。彼らは、喫茶店に入ればテーブルの上に当然のように灰皿が置いてある風景を知らない。職場でも、上司の灰皿の始末が女性社員の仕事の一つだった。

 もちろん、随分長いこと、煙草の害については言われてきているが、昭和40年、50年代ぐらいまでは、成人男性のほとんどは煙草を大人の嗜みのように吸っていたのではないか? たぶん、昭和初期も煙草を吸うことは男の嗜みだったのではないだろうか。( と思って後で調べてみたら、やはりそうだった。JT全国喫煙者率調査」。男性の7、8割が喫煙者だ。)

 元号が変わる頃から徐々に分煙、禁煙の動きが出てきたが、実際に社会が喫煙に厳しくなったのはこの10年ぐらいで、平成14年(2002年)に、日本で初めて千代田区が路上喫煙禁止条例を制定している。その後、これに倣う自治体が多く出たが、この時期多機能トイレ(だれでもトイレ)には「禁煙」の張り紙が増えた。外で吸えないから、トイレで隠れて吸うのだ。誰にも見つからずに済む多機能トイレは格好の場所だっただろう。多機能トイレでは、本来必要なユーザーが使えない、待ち時間が長い、吸い殻が汚いなどの問題が起きていた。

  路上喫煙禁止条例は喫煙マナーについてのルールで、健康に関する事柄は、平成15年(2003年)にWHOが「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」を採択し、翌年日本も署名、条約は2007年に発効している。

 
 話がそれたが、喫煙の習慣が社会的に当たり前のようにあったのだ。実在の堀越二郎は煙草を吸わない人だったそうだが、時代を表現する上で、喫煙者にしたのではないか。 
 

 地域包括ケアに関わる看護師と、こんな話をしたことがある。介助が必要な障害者が煙草を吸いたいといったらどうするか?
 その看護師はケアの観点から吸わせないと。私は、本人が煙草の害について承知なら判断は本人に任せるべき。看護師の顔がこわばった。
 その人にとっては数少ない楽しみの一つであり、リラックス方法なのだ。煙草を吸うことによって喘息の発作とか、なにかの症状がすぐ誘発されるのではないなら、喫煙のプラス面も考慮されるべきなのではないか? だって彼は判断能力がある大人なのだから。
 実際、知り合いに、美味しそうに煙草を吸う車いすユーザーがいる。チェーンスモーカーではない。ときどきほしくなるという。煙草を吸うことでリラックスできるのなら、それでいいではないか。

  健康志向を否定しているわけではない。できれば煙草は吸わないほうがいいと思う。
 だが、融通が効かない健康志向は、人に幸せをもたらさない。

 二郎が煙草を吸いたいからと、菜穗子の手を離そうとするシーン。菜穗子は横で吸っていいから手を離さないで、という。今の幸福感を手放したくないのだ。死期が近いのだから、それもいいではないか。

 
 今もまた窮屈な時代なのだと思う。生きづらさを抱えた人にはなおさら。

 それから。二郎の声の庵野秀明が話題になっていたが、上司の黒川を演じた西村雅彦声のが声がよかった。直属の上司で最大の理解者が、声も含めて、あのキャラクターで描かれていて、ほっとできたというべきか。

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